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石内都「いのちのプリント」(前編)

写真家にとって暗室はとくべつな場所です。それぞれこだわりや流儀があって、そんな場所を公開するのは、はばかられるようなことかもしれないと思う。
「いらっしゃい。」という石内さんのお言葉に甘えて、プリントのひみつを探るべく、resistおんなしゅう、どきどきそわそわしながら暗室と収蔵庫を見に行ってきました。
(聞き手:直江沙季・株本和美・影山舞 / 文:キナミケイコ / 写真:竹花聖美 )


― 寒い!温度設定はあるんですか?

石内:温度設定は夏だけして、湿度設定だけ。湿度50℃か60℃。湿度計が3つあるんだけどいい加減で、どれが正しいか…

― 3つ湿度計あります。でも3つとも違います…(笑)。

石内:ここはもともと仏間だったの。

― 仏間壊しちゃったんですか?

石内:そう。ここは床が檜で天井と壁が松。美術館はみんなこれ。どこの収蔵庫もみんな木。湿度調節が自然の木はできるみたい。香りが良いでしょ。

― どなたかに相談されたんですか?

石内:ギャラリーの人に聞いてから大工さんに。こういうの作りたいって言ったら、彼も学んだの。
勉強して、木の質とか。
私も始めは「自然の木は高いから床だけ」とか考えていたけど、途中から「合板はいけない」と思うようになって…。合板は化学薬品で作ってるものだから、本当にちゃんとやるなら自然の木でないと、仕方ないねって。天井も元々の高さからあげてもらったの。

― 20センチぐらいは上げてますよね?ここは元々仏間だったんですか?

石内:そう。和室が2つあったの。ここは本当は6畳間で、ここ(写真の棚)は押入れだったの。6畳間と押入れが2つ。8畳分。

― 上を高くしてるので大きい作品も入りますね。

石内:自分で計算して決めたの。自分の作品の大きさは分かっているから、かなり計算しました。無駄なくやるにはどうしたらいいかを。
(ふすまを開けると写真が出現)

― わー面白いですね!!

石内:変色してしまったから、捨てようと思ったんだけど。これは助手の女の子がもったいないからここに張ったらって。これは原子力空母ミッドウェーです(笑)。

― (建物自体は)築何年ぐらい?

石内:築40年ぐらいかな。ちゃんとメンテナンスしてるからそんなに古びてないけど。漆喰ってやっぱりカビが生えるんだよね。
― ここは?

石内:ここは水洗場。

― ここでは最大でどのくらいの大きさが?

石内:最大で108×80ができる。

石内:これが通常の暗室。ここは4つ切20×24インチをプリントをする部屋。

― ここの部屋の広さはどれくらい?

石内:6畳くらいかな。(厚紙のようなもので作ったものを指差して)それ、イーゼルは自分で切って作ったやつ。通常は器械のほうでできるけど、それ以外のは自分で作るの。

― 1947って「1・9・4・7」の写真用ですか?以前のものを焼くこともあるんですか?

石内:もちろん。あと自分が気に入った写真はここにおいてあるけど。基本的にここで私の写真はほとんど生まれる。

― デヴィットボーイはどうしたんですか?(デヴィットボーイのポスターが貼ってある)

石内:デヴィットボーイ大好きなの!ただ、歯を矯正してからだめになったの。矯正する前がよかったのに(笑)。大好きなの、声が良いでしょ。
ロール以外はほとんどここで生まれる。私ロールでプリントするから。私は平気でロールプリントやってたから、20メートルの印画紙を切って。

― すごい…。

石内:すごいって普通かなって思っていた。ここは通常の暗室だけど、隣は年に2回しかやりません。大きいロール印画紙は隣で焼いています。水温が20℃になる、年に2回だけ。4月と10月。

ここがロールプリントをやる部屋。これが引き伸ばし機、現像液を入れるプール。これで自分で作る…(実際にやって見せてくれる)半端なことじゃないですよ。

― 薬液も相当使いますよね?

石内:40リットル。これは一番大きいの。一番初めのバットで現像液が入っている。なぜかというと、印画紙を切って現像液に入れるときに傷がつくのよ。
だから傷がつかないようにしないといけないから、印画紙をフラットに入れられるようにこれだけ一番大きいの。

― この部屋を全部暗くするんですか?

石内:もちろん!真暗闇にする。楽しいのよ。そんなにばかでかい感じはしないでしょ?
ロールの幅が108センチを83センチで切る。(ロール紙を見せながら)この大きさしかできない。木枠を組んでビニールシートを張る、そのためのもの。いろいろ考えて一番楽なのはこれだった。40リットルで済むし、傷がつかない。

― 他にはどんな方法が?

石内:ブリキの舟形でバットを作ったことがある。でも舟形が結構大変で…。これが一番簡単。

― これでプリントし始めて何年目ぐらいですか?

石内:10何年かな…。最近あんまりやってないの。広島が最後かな。

― どうやってやってるんですか?

石内:昔は素手でやってた。

― え!素手はだめですよ。

石内:片手に手袋して、片手は素手で。

― なるほど。廃液はビニールシートのプール場合だとバキュームみたいなので吸い上げて捨てるんですか?

石内:いいえ。柄杓。柄杓で汲み上げて捨てるの。大変なの。

― 年に2回ぐらい?

石内:っていうのは、水温が自然に20℃になるから。水温20℃が(エアコンなどを)何もつけない状態でできた時にしかやらない。

― 確かに。小さいのは調節できますが、プールになるとね…。

石内:やっぱり自然の温度でやるのが一番ラク。それがエコにもつながる。それはあんまり考えてないけど(笑)。無理がない。クーラーガンガンに効かせてプリントするより自然にまかせる。
ロールプリントで何が一番大変って水洗が大変!水洗は20℃が一番良いから。基本的にバラ板は一時間水洗しないといけない。玄関先に水洗用バットを作って一時間水洗しているの。一時間一枚だから。

― 乾かすのは?

石内:クリップで、自然乾燥。プリントは長い時間かからない。一番気を使うのは水洗!黄ばんだらまずいから。

― 引き伸ばし機をここにもってきて床投影するんですか?

石内:そう。

― 印画紙は何を使ってるんですか?

石内:印画紙はオリエンタル。

― これがいいと思って?

石内:他にないから。オリエンタルはダメになってきたからこれからまた探さないといけないんだけど…。もともと選択肢はそんなにロール紙はないんだけど。昔は月光を使っていた。そのときにうまく手に入るものを使う。

― お好みはありますか?

石内:もちろんあるけれど、それも選べる中で。ロール紙は光沢があんまりないの。

・いのちのプリント(後編)>>

更新日:2011年2月7日