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『教えて森山総長』その10

中山:森山さんは、そういった『そこから抜ける』って思いでやってきて来られたんですね。

森山:うん。だから僕の場合は、さっきの話になるけど、当時ちょうどそう言う事をやろうかなとモヤモヤしてる時に、カメラマン誌があったから、ターゲットになったんだよね。でも今はそれが無いじゃない。そう言う意味ではカメラ雑誌がさ、ビビットじゃないから。60〜70のおっさんを相手してる雑誌だからさ。

中山:僕も写真やってるんですけど、あんまり見ないですねぇ。

森山:見なくていいよ。はっきり言って。

中山:森山さんが載ってる時は見たりしますけど。

森山:それは良い事だけど。

全員:(笑)

森山:まぁとにかく、なんて言うの?いい子にならんでね、おとなしくならないで、写真も。自己破壊てのは言葉で言うと簡単でね、それは難しいんだけど、でもやっぱりどっかで自分でそれをやってかないと。本当の自分てのに巡り会わないよね。まぁカッコつけないで、カッコつけるとカッコ悪いからさ。カッコつけないで、無手勝流でやった方がずっとカッコいいよ。見てもらいたい人に送った方がいいよ。この人だよなって思う人に見てもらうのが。どうせ送られた側は「なんじゃこりゃ?」てもんかもしれないけど、それでもいいんだよ。

中山:それがいわゆる、現実と挑戦しているて事ですよね。

森山:そうだね。そっからさ、そら何がいいはかわからんよ。何もはじまらないかもしれない。でもやらないと。やっぱそれは徒労にはならないと思うから。部数てのは、見せたい人間をリストアップした部数を出せばいいんだよ。それが30人だったら30出せばいいんだよ。10人しか居なかったらさ、10人でいいんだよ。そのかわり出し続けんだよ。

中山:よし!

森山:瀬戸(正人)君は若い頃だけど、変な男だったよね。自分が『この人』て思ってる写真編集者にさ、毎月写真を無名で送ってんだよ。瀬戸とも書かないで。で、その内、僕の知ってる編集者が「こんなの来るんだよねぇ」てさ。なんだかわけわかんないけどずっと来るんだよねって。で、結局瀬戸正人て分かるんだよね、どっかで。で、「へぇ〜あいつか」みたいなさ。まぁそれがいいとは言わないよ。そんな事からはじまって、なんてことないけど、つまりそう言う馬鹿な事が(笑)、どっかでね、なんかになったりするんだよ。それにやっぱり写ってる物の説得力もないと、それが伴わないと、単なるゴミ扱いになっちゃうから。

中山:森山さんは、渋谷で自宅をギャラリーにした時代がありました。やっぱりそれをやられた事は、そう言った表現の一つだったんですか?

森山:そうね、あの時期は渋谷に行く前は明大前のモルタルアパートに居て、ネェちゃんと猫が居てさ、もうすぐに嫌になって、もうやめよう、ここから出て行こうって。で、その頃メーカーギャラリーとかあちこちから展覧会やってくれって言われてたけど、全然興味ないからさ、そんなんじゃなくて、自分でスペース持って、自分のそれこそ我がままだよね、貼って来てもらいたい人だけに来てもらえればいいやと思って。そういう、一番ミニマムな場所を作ろうと思ってやったんだよ。てことは、明大前の生活に飽きがきてるから(笑)、そっから出て何かやりたくなったんだよ(笑)。

中山:そういった自宅兼ギャラリーみたいな考え方はなんか凄くインスパイアされますね。

森山:あのね、何事もコロンブスの卵で、単純な発想の方が、実は面白かったりするんだよ。つまり、自分で自分を燃やすって言うの?大袈裟に言えば。自分で自分に火を付けるみたいなもんだからさ。だって誰も火を付けてくれるわけじゃないから(笑)、自分で付けないと。まぁ明大前に居てもさぁ〜。

中山:(笑)明大前の生活がどうだったのかは想像出来ませんが(笑)、なにかマンネリだったんですか?

森山:て言うかさ、まぁ写真は撮ってたけどさ、ちょうど『写真時代』やってた頃だよね。真ん中頃からな。猫撮っててもなぁみたいなさ。

中山:そういった所から変えてみたかった、その衝動から家もギャラリーにしたかったんですか?

森山:僕の場合はわりに、ある日突然衝動で思いついてバァーっとやりたくなってやるんだよね。後先見ないで。尾仲浩二君とかに頼んで内壁を作ってもらってさ。彼らは晴海のなんとかショーとかの建て付けやったりしてるから上手いんだよ当時はね。

中山:でようやく壁が出来て。

森山:僕は見てるだけって言う(笑)。でもそのうちみんな聞きつけてさ、みんな呑みに来るからさ。毎晩呑んでんだよ。夕方になるとみんな来やがってね(笑)、酒も持ってこないである酒を呑むんだよ。いいんだけどそんなことは(笑)。みんな来たよ、荒木さんなんかもよく来たよ。いろいろ連れて、こんなにコロッケ買い込んでさ。で、荒木さんも凄くそこでやりたいって言ったんだよ展覧会。「森山さんやらせてよぉ」てさ。「ダメ。あなたはどこでも出来るんだからダメ」て(笑)。

中山:それは森山さんの写真だけですか?

森山:僕もやったけど、石内都さんとか、山崎博さん、深瀬(昌久)さん、中平(卓馬)もやったかな。自分の好きな、仲間みたいな人だけはさ、時々頼んでやってもらったんだよ。そのうち飽きるんだよ俺もまた(笑)。だから五年間居たけど、三年間開けて、後の二年は閉めてたよ。

中山:そうなんですか。

森山:面白かったねぇ。CAMPもそうだしね。

中山:北島敬三さんですね。

森山:うん、北島君なんかほんとに若い頃だからさ。倉田精二とかだな。そうか、みんな病気だよ。

中山:それは写真を拝見するとわかりますよね。二人とも病を抱えてる人たちですよね。

(『教えて森山総長』その11に続く)

更新日:2010年4月10日