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『教えて森山総長』その5

中馬:ではガラッとかえまして、毎日はどういう風に暮らされてるというか、まったく想像がつかない、ミステリアスな感じなんですが。

森山:そんなのぜんぜん普通のおっさんだよ(笑)。

中馬:凄くお忙しくされてるのでは?

森山:まぁね、それはやっぱり、ここんとこずっといろんな事があるからさ、まぁ忙しいよね。しかも僕はアシスタントを持たないし、全部自分で結局やってるから。で僕は、そんな本質的に真面目じゃないからさ、几帳面にきちんと物事が運ばない。アバウトだから。だらだらだらだらするから余計こうなるんだよね。最近呑まないから、朝7時にはちゃんと起きて、午前中はなんか書類みたり、手紙書いたりして、多少有るか無きかの事務的な事をちょっとやって。それからだいたい2時間か3時間、どっか写真を撮りに行く。て言うのは、大体ミーティングとか、何とかを色々午後にしてるから、それでいっぺん戻るわけだよ。池袋の仕事場に。それで、一時間ぐらいボーっとしてて、それからそこで、いくつか予定があるから行くわけよ。なるべく最近は予定を入れないようにしてるし、大体いくつか予定が終わったら、どっか行って写真を撮るわけだよ。それで帰ってくる。そう言う事だよ(笑)『もうひとつの国』というエッセイ集があるんだけど、それにも書いたように、朝起きたら冷蔵庫からチョコレート出して、缶コーヒーで朝飯にして、あとコンビニ行っておにぎりとファミチキ(笑)。あれ大好きなんだよ(笑)。もうそういう、ほんと普通のオヤジよ。

中馬:お忙しいイメージがあって。

森山:まぁね、今言ったように僕一人でやってるからね。いろいろな事が重なってくるじゃない。一つの用事がもう一つの用事を引っ張ってくるしさ、そいつがまたなんか引っ張ってくるからキリがないなんだよ。でもなるべく最近はもう、そういうのをなるべく切ってるわけ。そうしないとやっぱりさ、ある程度半日ぐらいは写真撮りたいじゃない。2時間行って次の時間があるから帰ってくるのも、しょうがないけど切ないよね。だって僕はカメラマンなんだからさ、打ち合わせで生きてるわけじゃないから。なるべく歩くように、撮るように、ていう風に最近はなるべくそっちの方に向けて。

中馬:そういう日々を送る上で、独自の健康法みたいなのはあるんですか?

森山:なんにもない。僕はなんにもやってないから。俺は生まれつきね、これは両親に感謝なんだけどさ、やっぱり内臓が丈夫に生まれてきてるからさ、かなりまいっても復元するんだよ。その辺はね、野良性が強いから(笑)ほんとに。少々どこか悪くなったりなんかあっても自分で治す。医者行かないし。

中山:凄いっすね!

森山:まぁね、いつまでそんな事言ってられるかはわかんないけれど、もう71(才)になったからさ。だからわかんないけど、そんな事、まぁしょうがないんだよ。

中山:やっぱり写真家は、身体が一番ですね。

森山:それはそうだね。頭もあんまり悪いとダメだけどさ(笑)。まぁでも基本、身体だよね。僕らのスナップカメラマンは、歩けないとダメだし、まぁスナップでなくても、体力は必要だよね。

中山:ずっとストリートスナップをやられてますけど、今、ストリートスナップてどういう状況になってるんですか?やりにくいとかは?

森山:いや僕の場合はあんまりそれは無い。なるべく撮りたいのを撮ってるよね。やっぱりほら、カメラマンが街頭を撮れなくなったらおしまいだろ?まぁいろんな写真のジャンルはあるし、いろんな表現の仕方はあるけど、基本はやっぱりスナップだと僕は思ってるから。後はメディアによって、これはちょっとプライバシーで肖像権でなんか言ってくるぞみたいなのが向こうから言ったら、多少「んじゃそうするか」みたいな折り合いはつけるけど。写真のひとつの本質にはさ、『暴く』てのがあるじゃない。『暴く』て要素がかなり強烈にあるよね。写される事によって暴かれちゃうて言うさ。それから、『盗る』とかさ、『shot』する感覚があるじゃない。ハンターが『shot』するようなもんでさ。そういうのがあるよね。だから、記録性だけではなくて、そう言う攻撃性とかも、実はその複写するという事の中に入っちゃうわけだよね。だから今でもカメラ向けると、みんなこっちを見るよね。やっぱり、写される事への本能的な何かがやっぱりカメラの中にあるよね。だから絵描きとかいいよなって思うよね(笑)。だって、こうやって描いてりゃいいんだもん。ブエノスアイレスのビーシャとか行ったら怖いもん。怖いけどさ、やっぱりカメラマンだからね、見て見ぬフリは出来ないじゃない。やっぱりつい撮りに行くよね。でも絵描きだったら、ぷらっと歩いて散歩して、帰ってきてイメージをこうやって描きゃいいんだろ?どうにでも。そう言ったら絵描きは怒るけどさ(笑)。そんなんじゃねんだよって言うと思うけど。

中山:森山さんは何十年も発表されてこられて、色々な批判とか、いっぱい受けたりとかあると思うんですけど、そう言った時に、モチベーションが落ちたりとかはしなかったんですか?

森山:いやそれは全く無いとは言わないよね。基本的には僕は別にそんなのは『言ってれば』と思うだけで。でもやっぱり悪口言われたら頭くるしさ。見当違いでも褒められたら『まぁいいよ』て思うけど、普通の人間だから。でもね、やっぱり70年代入ってから、それまでずっと僕の写真は面白いて言ってた連中が、みんな手のひら変えて、『森山大道はマンネリだ』とか言われた頃ってのは、自分自身が写真が見えなくなってる時期だから、ちょっと堪えたね。

中山:ちょっと撮れなくなった時期が?

森山:自分がやっぱりやってる時はさ、結構その気になってる時は何言われても『うるせぇ』とか思うけど、自分が写真とインターバルを取れなくなった時はね、そう言う事言われるとちょっとね(笑)、わかんなくなったよね。でも僕は根が楽天的と言うか、あんまりねぇ、『言ってれば』て思うぐらいだよ。

(『教えて森山総長』その6に続く)

更新日:2010年4月2日