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山田なおこ「スナックと私」(前編)

日本の津々浦々にあるスナックを撮影し続けてきた山田なおこさん。量だけは負けたくないと、10年撮りためたブックは、部屋を埋め尽くすほどにまでなった。昨年。念願の写真集を上梓。スナックでのアルバイトがスナックを撮り始めるきっかけだった。
(編集・写真:キム ソジョン / 写真:穴田昌代 )


スナックでのアルバイト

― スナックを撮り始めるきっかけは何かあったんですか?

山田:スタジオに2年、写真事務所でアシスタントを5年やってたんだけど、写真事務所がなくなってしまったので、フリーにならざるを得なくなったんです。で、フリーになった時に、なんとか仕事とかあってやっていけるのものなのかなあと思っていたんだけど、なんともならなかった。(笑)それで、スナックでアルバイトを始めたんです。

― スナックで働いてみようと思ったのは?

山田:どうせだったら、自分ができないことをやってみようと思ったんですよね。お酒を飲むのも嫌いじゃなかったし、でも実際に面接に行くまで、スナックで働くには、うまいことしゃべんなきゃいけないということもよくわからなかったんです。実は、しゃべるのが苦手で、どっちかというと一人で黙々とやる方が好きなんです。

― 苦手なことによく挑戦しようと思いましたね。

山田:そうなの。今から考えると、自分でもすごい選択をしたなと思う。でも、当時ちょうど30くらいだったから、若いわけでもないし、学生でもないし、向こうから何かを与えてもらう歳でもないから、自分が何かを見たいとか知りたいとか思ったら、自分から出ていかないといけないな、という気持ちはすごくあった。それで、求人誌の募集を見て、スナック『愛』に面接に来たんです。

スナック『愛』のママ(以下ママ):最初ね、面接にジーパンで来たのよ。びっくりしたわよ。普通は採用してもらいたいからさ、ぴっかぴかに着飾って来るのにね。で、カメラ機材を買いたいからって言ってね。どうしようかなと思ったんだけど、常連のお客さんが言ったのよ。この子は目が生きているから絶対に入れたほうがいいよって。

山田:ちょうど10年くらい前ですよね。

ママ:そうそう。女の子が入ってきても、2、3年で独身のお客さんと結婚したりして辞めていくから、最初はなおちゃんもそうなるのかなあと思ってたんだけど、カメラが忙しくてね。それどころじゃなかったみたいね。お客さんも、みんな応援してくれてね。服装もジーンズではなくて、白いブラウスとか着て学生さんみたいだったわよね。

山田:スタジオの後輩とかが店に来て、スカート履いてるって驚かれました。

― もともと無口だとおっしゃってましたが、仕事の時はどうされてたんですか?

山田:最初は、すぐにカウンターの中に入って洗い物ばかりしてた。でもすぐにばれちゃって・・・。

ママ:そうそう。それで外に引っ張り出されてね。でも、あんまりしゃべらなかったよね。ただ聞いてるだけ。目で聞いているの。この商売、しゃべる人ばかりじゃ困るのよ。べらべらしゃべって騒がしい人の方が多いから。余計なことしゃべんないからさ、なおちゃんが入ってくると、空気がすっと清流が流れてるみたいな感じになるわけよ。

山田:よく言うわ、ママ。(笑)

ママ:しゃべらなくても気を使えば、お客さんも喜ぶしね。みんなから、カメラマン、カメラマンって呼ばれて人気がありましたよ。カメラマンでスナックに勤めている人ってあんまりいないからね。看護婦さんとか保母さんとかはいたけどね。女の子同士っていうのは、しょっちゅう喧嘩があるものなんだけど、そういうのも全然なかったしね。本当に、黙ってどんどん仕事をする人。

― スナックで働き始めて何か変わったことってありますか?

山田:他の人といるときに、相手のことをちゃんと見るようになったと思う。あと、写真もスナックも、同じだなと思った。うまくしゃべれなくてもいいんだけど、ちゃんと正面から向き合うことがすごく大事で、そうしないと、やっぱりお客さんが離れていくんだよね。だから、写真でも他のことでも同じことなんだなって、すごく思った。


スナックを撮り始めたワケ

山田:『愛』のママと出会ってね、本当にスナックのママってすごいなあって思ったの。やさしいだけじゃなくて、強くなきゃだめだし、厳しさもなきゃだめだし、女っぽさも必要だし。それから、女の子の面倒を見たり、お客さんの話もちゃんと聞いたりしないとだめだし。男と女の両方の部分を持って、でも女の優しさをちゃんと出せるのが、すごいなと思ったんです。

ママ:まあ、苦労し甲斐があるよね。

山田:スナックの良さって、ママがいつもお客さんのことをよく見ていて、どのお客さんも自分がこの場所にいてもいいんだなって思える所だって思う。その分ママはすごい大変だけど。そういうのをすごく感じるのはスナックならでは。それまでにも、スタジオで働いていた時に、デザイナーとかスタイリストとか、バリバリ働いている女の人をいっぱい見てきたけど、スナックのママのカッコよさは格別だった。特に、ママは、強さと優しさをもった女性で、なんかすごいなってめちゃくちゃ感動した。だから、ママと出会ってすぐにスナックを撮りたいって思ったんだよね。

ママ:最初その話を聞いた時に、この子は10年はかかるだろうなって思ったからそう言ったのよ。性格からして、勢いでやるタイプではないから、やるとしたら、コツコツやるだろうなって。そうしたら本当に10年で写真集になったでしょう。ここで出ている私の写真は10年前のものだから、若かったよねえ。

山田:ママと出会ってなかったら、こういう風に写真集になるということは起こらなかったと思う。

ママ:そういう風に言われると、すごくうれしいよね。

― 撮影で全国のスナックを回る時、どういう風に店を探していくんですか?

山田:知らない街でいきなり飛び込みでというのは、スナックの場合はまず無理だから、ママさんの紹介とか、地元で飲んでいる人に紹介してもらったりとかかな。

― もし、ママの店に飛び込みで写真を撮らせてくださいって来たらどう思いますか?

ママ:そりゃ、なんか異様な感じがするから断るかもしれないよね。誰かの紹介なら、すぐに大丈夫だけど。飲みに来る場合も、飛び込みの人は向こうから身構えているもんだし、こっちも変だなっていう風になるから難しいわね。一度仲間に入ってしまえば、家族みたいな感じになるから大丈夫だけどね。

山田:地方とかに行ったときは、地元のお店に一人で行きます。特にお寿司屋さんは、地元のママさんがよく利用していて、女一人で行くと、何しに来たのって、話かけてもらえる事が多くて、情報が聞けてすごくいい。

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更新日:2009年1月9日