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山田なおこ「スナックと私」(後編)


写真の凄さ

― そもそも写真を撮り始めたきっかけは?

山田:祖父とお父さんがカメラ好きで、小さい頃から写真が身近にあったんです。父は、いつもこれ写るのかなあというような古いカメラをカメラ市で手に入れてきて。そのカメラで家族の写真を撮ってはプリントをしてくれてたんです。その影響で学生時代に写真部に入って。展覧会とかに出しているうちに、写真が好きだなって思ってきた。

― 写真の学校とかには?

山田:母が洋裁をしていたりしたんで、手に職をつけたいなとは、思っていたんだけど、本当に写真を職業にしようと思ったのは、おばあちゃんの写真を撮ってから。亡くなった時にその写真が遺影になったんだけど、おばあちゃんの後ろに、その時の棚とかに家具や時計、おばあちゃんが使っていたものとかが全部写っていたんだよね。撮影した私は、おばあちゃんのことしか見ていなかったのに、写真は、周りにあったいろんなものが記録されて残っているから、すごいなって思った。絵を描いたり縫物をしたりすることも嫌いじゃなかったんだけど、おばあちゃんの写真を見て、写真の凄さに感動して、職業にしたいなって思った。それで専門学校に行って東京のスタジオに入ったんです。


10年撮り続けてきたこと

― 今ちょうど山田さんがスナックを撮り始めたくらいの歳なんですけど、自分にも撮り始めているテーマがあるのですが、続けられるか不安になったりします。10年同じテーマで撮り続けて来られた秘訣は?

山田:本にする事だけを目的とせず、自分が本当に残したいものかどうかという事が大事だよね。ブックを持って見せにまわったりすると、いろんな人からいろんな評価をされるけど、自分が本当に残したいと思うテーマだったから、不安を感じた事はなかった。後は、テーマに対して本気でいた方がいい。本気を出さないで負けた時の方が悔しいと思うから。本気の出し具合は人それぞれあるけどね。いつでも真正面からぶつかっていくのだけが本気というものではないから。だから、その人なりの本気で向き合ったほうがいいと思うな。

― スナックって、部外者に冷たいところがあるから、断られたりして、撮影が進めにくい所もあったのではないかと思うんですけど。

山田:逆の立場で考えたら、断られても当たり前だから、どうっていうことない。いっぱい撮りたいという気持ちを持ってぶつかっていって、断られたらしょうがないって思う。私だって、全然知らない人に写真撮らせてくださいとかって言われたら、は?って思うもん。断られて当たり前の事だよね。

― 断られて落ち込んだりしたことはないんですか?

山田:普段の生活で落ち込むことはあっても、このテーマに関して一度も落ち込んだりしたことはない。やめようと思ったこともない。逆に励まされることばかり。写真って鏡みたいな所があって、本人が怖いと思っていると相手も怖くなる。声をかけて撮るときに緊張しててもいいんだけど、緊張を超える誠意があれば絶対にOKだから、緊張だけで終わらないようにすればいいと思う。


今後のテーマ

― これからもママを撮り続けるんですか?

山田:私の中で飽きてはないので撮りやめることはないけど、今回かなりの量の写真で写真集になっているので続編が出るとかはあまりないと思う。その他にも、大げさなテーマではないんですけど、人の家にあるネギの箱の発泡スチロールに植わってる野菜とかお花が好きで、撮りたいなと思ってます。そういうのって、人が関わっていないと育たないものだから、人の存在をすごく感じてうれしくなる。道端のそういう植木と世話をしている人とを絡めて写真を撮りたいな。って思ってます。いろんな人に会いたいという気持ちがすごくあって。

― 人に会いたいというのは昔からあったんですか?

山田:スナック以降ですね。それまでは黙々と撮ったりする方が好きだったんだけど。30過ぎてから人に会いたいと思うようになった。今回の人生の中で自分に足りないものに挑戦する機会を与えてもらっているんじゃないかなとすごく感じます。とにかく、私みたいな人が写真集を出せたっていうことをみんな励みにしてほしいなと思う。私は、別に才能があるわけでもなく、一回あったら忘れないような強烈な個性もない。だけど、やり続けてきたから、写真集を出すことができた。それは本当に励みになるんじゃないかなと思います。(完)

更新日:2009年1月23日