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会田誠「馬鹿でいいのだ」(後編)



"一所懸命"やる

― 会田さんはご自身のことを自虐的、否定的というか様々な角度から客観視されますが、それ故に頭や心が混乱して制作が止まる事はないのですか?

会田:そうですね…、ひとつの方法を決めて、そこから一所懸命やる。一生懸命ではなく、一所懸命です。ひとつの所に命を張るというのが昔からそれが素晴らしいと言われているし、それは現代でも同じだと思いますよ。作品によって表現方法やジャンルを変えたりしますけど、それぞれのジャンルの中に固定したものがあることは良いことだと思っているので、既にあるジャンルをミックスさせてごちゃごちゃしたようなものは、逆にやらないですね。『ミュータント花子』のような漫画らしきものなら、コマがあって、セリフがあって、起承転結のストーリーがある、みたいな。保守的ではありますね。過去の先輩達のお手本があるからこそ、自分が今どれくらい至らないかが分かりますし。現代美術は「いい加減だからステキ」と思ってこのジャンルにきましたが、逆に自由が嫌いなところもあって。縛られるというか「一所懸命」の場所を動かないという価値も分かっているので…まあ、中途半端ながらやっております。

― 長年温めていたアイデアに着手するきっかけはあるのですか?

会田:つまらない答え方になってしまうけれど、今は有り難くもこちらが売り込まなくても展覧会の話が来るようになったので、まず場所を見て、壁や高さを知って、この空間に合うイメージがあったかな…と、過去のアイデアのストックから記憶の紐を解いていく。今は発表の場所ありきという感じです。

― 森美術館の展示で言いますと『電信柱、カラス、その他』のように、長年温めていたアイデアが時代の事象とリンクする事があるとおっしゃっていましたが。

会田:いわゆる、予言者だって、不吉な事を言えば必ずいつか当たるようなものじゃないですか。僕はちょっとネガティブで、最悪な状況、人類滅亡がいつもベースにあるイメージがあって。必ずいつかは全て滅びるはずだと思うんです。太陽にだって寿命があるわけだし。考えてもしょうがないことだから毎日そのことで悩んで暗くなっている訳ではないけれど、常にベースが「全ては滅びる」というところから出発しているから、ポジティブで楽しい現実のディテールがあったりするんです。そういう中での都市が燃えていたり、人の死体が山になっていたりするイメージです。観念的かもしれないけれど。

― 「全ては滅びる」言葉にしたら圧倒的に重い言葉ですね。

会田:とはいえ、楽天的とも思うんですよね。ある種のメンヘラな人に比べたら僕は能天気で幸せに若い時から生きている方です。人によりけりかもしれないけれど、いつかは文明も地球に発生したDNAも全て全く無かったかの如く無に還ると思えばこそ、個人的に僕ひとりが鬱病になってもしょうがないなぁと思ったりするんですね。究極ネガティブな事を想定する事で、現実の日々のディテールをハッピーに生きようとしているのかもしれなくて。明るさと暗さや絶望と希望のバランスのとり方が違うのかもしれないですね。そんなこともあって、僕の作品の中でネガティブイメージの作品が多い理由かなと。


賢くある必要なんてない

― そのように客観的に観察しているのをうかがえるエッセイで文章という形でも表現していらっしゃいます。吉永さんや森山さんも、「写真で伝えていることは言葉でも伝えられないといけない」と話されていました。

会田:僕のインタビューの時の喋り言葉は、活字にしたら形にならないような感じだけれど(笑)。

― そんなことありません!! 

会田:文章の時は、まるで別人格を作って、頭の中に厳しい作文の先生をこしらえて、(パソコンのキーボードを打つ振りをして)こうやって書いている僕をその作文の先生がビシビシ駄目出しをするという複雑な工程を踏まないと書けないから、くたくたになるんですよね。そんな人多いんじゃないですか?美術家や写真家で文章を書く人も多いけれど、そんなに文章をスラスラ書いている人はいないですよ。みんな必死こいて書いていると思われますけどね。

― 会田さんの文章の完成度は作品の完成度に共通するものを感じます。

会田:文章においても僕は保守的なんですよね。アーティストなら、もっと壊れた不思議な文体や言い回しやロジックを駆使していいのかもしれない。例えば、草間弥生さんはポエムみたいなのも書くけれど、文章も作品みたいな人で、ああいうのが本当のアーティストとしての言葉じゃないですかねぇ。ちょっと壊れているくらいな。それに比べて、僕は起承転結のようなものを考えてしまいますからね。セコくね。

― 今のように「セコくね」と言われているところなど、いつも冷静にご自身のことを客観視していますよね。

会田:変なバランスの奴だと思う事はあります。いい加減さと律儀さのバランスがおかしいかも。全体的にはいい加減で、個別では律儀で。さて、エッセイを書くぞとなると、なるべく小学校の教科書に載ってもいいようなのを目指そうとして。そこまでは至らないのだけれど…。

― その客観性が全ての作品に含まれているように思われます。

会田:若い時から知的コンプレックスみたいなのがありまして…。でも、馬鹿でもいいんだと開き直れるようになって。

― 馬鹿でもいい…ですか?

会田:はい。デビューして仕事をするようになってから開き直り度合いは大きくなりました。その理由は、立派な人なら沢山居るんですよ。例えば、編集者とかフリーライターのような自分の名前で表現したりしない人達。彼らは僕より頭は良いし、知識豊富だし、正しいし。だから、作家は馬鹿でもいいんだなと。世の中分業で、馬鹿には馬鹿の存在理由がありますからね。そのかわり馬鹿な代わりに魅力的な絵が描けなければいけないとか、なんらかのプラスアルファが必要ですけれどね。なまじ、美術家や写真家が賢くある必要なんてないんですよ。
(完)

 会田誠さんの個展が1/29〜ミヅマアートギャラリーで始まります。
 この展示では初の監督作品となる映像作品が公開されるそうです。

土人@男木島 2013 ビデオ(約48分)
© AIDA Makoto / Courtesy Mizuma Art Gallery

【展覧会名】会田誠 展「もう俺には何も期待するな」
【会期】 2014年1月29日(水)ー 3月8日(土) 11:00ー19:00(日・月・祝休廊)
    ※オープニングレセプション:1月29日(水)18:00ー21:00
【会場】 ミヅマアートギャラリー
    〒162-0843 東京都新宿区市谷田町3-13 神楽ビル2F
    TEL: 03-3268-2500 / FAX: 03-3268-8844

更新日:2014年1月28日