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『教えて森山総長』その15

中山:森山さんはカメラを買った事がないって逸話があるじゃないですか。カメラ買った事ない写真家なんて考えられないですね。そう言った写真に対しての観念が無いっていうのですかね?

森山:いやでもさ、観念が無いなんて、金も無かったんだよ。カメラ持ったらさ、金無いからさ、中平と二人で呑みてぇなぁってなって、「じゃあ森山、お前のカメラ(質屋に)入れろ」って(笑)。で、今度は俺が入れるからって、絶対入れないあいつ(笑)。

中山・中馬:へぇ〜。面白い。

森山:だから東松さんのカメラも結局呑んじゃった(笑)。馬鹿だよな。

中山:森山さんは新宿を撮っておられますけど、もっとはじめの学生運動の頃からも新宿を撮られてて、森山さんにとって、新宿とはどういう場所なのでしょうか?

森山:そんなもんはエッセイ読めばわかる。とにかくめちゃくちゃ単純に言うと、俺の中にあるいかがわしさとか当然あるよね。新宿のいかがわしさとかが似てんだよねてさ。そういう感じ。単純に言うと。新宿ってさ、なんて言うの…なんか人間の匂いがするようでしないさ、不思議な場所じゃない。例えば浅草とか行くと人間臭いじゃないもう。新宿もさ、歌舞伎町行けば人間の欲望だらけで人間臭いだけど、そのわりにはどこか風が吹いてるようなさ。

中山:浅草の人情的な部分じゃなく。

森山:俺あんまり人情とか好きじゃないから。そう言う世界は鬱陶しいと思うから。

梅村:渋谷に住んだのってどこに住んだんですか?

森山:宮益坂だよ。今でもビルあるよ、でっかい古〜いコンクリートの。1階はもちろん全部商店だけどね。

梅村:それで、(エッセイに)書いてますけど、一時間ぐらい掛けて、毎朝降りて撮ってたって書いてあるじゃないですか。

森山:うん。二日酔いでさ。毎晩人が来て呑むわけだから。だから朝起きると二日酔いじゃない。だから覚ましがてらカメラもって出て撮るわけよ。

梅村:はぁ。で、今もあるの?下の喫茶店って?

森山:今はもう無い。他の店になってる。

梅村:でも渋谷って好きじゃないんじゃないんですか?

森山:嫌いじゃないよ、そんなに。新宿のようなこだわりは持てないよね。

梅村:その時は宮益坂が好きだったんですか?そこは?

森山:いや、宮益坂が好きだったわけじゃないけど、たまたま探したらそこが見つかったから、そこが宮益坂だったから。

梅村:森山さんと、今の渋谷ってのが接点ないですよね。
森山:うん、まぁねぇ〜。まぁでも渋谷もさ、なんかやっぱり雰囲気のある街だよね、実は。まぁ若い子がいっぱい居るあたりは、まぁああだけど、大体もう坂があるじゃない。どこ行っても。坂のある街って基本的にどっか雰囲気あるよね。

梅村:なるほどなるほど。こんどのヤツは渋谷も結構行くんですかね?今度の『東京』には?

森山:もちろん渋谷も撮るよ。まぁでも後回しだね。

梅村:でも必ずやっぱり新宿っていう話は今日も出たけど、言われますねぇ(笑)。

森山:でも本当に歌舞伎町の写真を撮ったのは渡辺克己だからさ。あれは本当の新宿の写真を撮ってるよね。俺は俺の勝手に新宿を撮ってるだけなんだよ。

中山:まぁイメージとして、新宿というキーワードは森山さんには絶対付きますよね。勝手に僕もそう捉えちゃってますね。

梅村:呑む所が新宿だしって所かなぁ(笑)。

森山:まぁねぇ、やっぱり外国から帰って来てね、歌舞伎町行くとホッとするもんね(笑)。こんなとこねぇよなぁって思ってさ。

中山:外国には無いですよね、こんな街。

森山:うん。いろんな繁華街あるしね、いかがわしい所はあるけど、でもやっぱりな〜んか違うね。

梅村:二人とも大阪なんですか?

中山:僕は京都で、関西出身ですね。(中馬は大阪出身)

梅村:僕も大阪住んでたんですけど、森山さんは最近大阪好きなんでしょ?

森山:好きだよ。

梅村:昔嫌いだったけど(笑)。

中山:嫌いだったんですか?

梅村:住んでたときは(笑)。

森山:大嫌いだったね。コッテコテの。おっさんもおばはんも。

梅村:それはね、よくわかるんですよ。僕も大阪に居た時は、大阪を出たくてしょうがなかった。でも今なんか大阪行くと凄いいいですねぇ。

森山:大阪人は今でもさ、「ありがとう」て言うよね。あれはいいよね。なんか食べて出る時もさ、なんか買ってもさ、あれがなんか。

中馬:確かに大阪人は言いますね。僕もお店や銭湯出る時に「ありがとう」て言います。

森山:いや、本当の文化は、関西の方にあるよね。まぁどうでもいいんだけど。まぁそろそろ終わるか。もういいだろ?

中山:ありがとうございます。

中馬:長い時間ありがとうございます。

中山:なんか沈黙とか作っちゃったりして…。

森山:いやぁ全然そんなことはない。まぁがんばりやって感じだよ。せっかくこだわってんだから。

中山・中馬:はい。

森山:まぁ辞めるなら早い方がいいかもね。だからさ、とても大袈裟な事言うけど、辞めないと地獄になるぞ、その変わり(笑)。でもその覚悟があれば面白いよね写真は。それはどんなジャンルも同じだと思うけど。

中馬:自分がresist一期を終えてから、今resistは四期目にはいってるんですけど、その四期になるまでもまだ自分は写真が続いているので、やる気はあるんやなと思っています。resist一期の授業の時に、森山さんがそういう風に厳しいから早めに辞めた方がいいと仰ってたんですけど、それを聞きながらでも今まで続けてこられてるってうのは、そういう続けるという思いが強くあるんだと思っています。

森山:ただやっぱり、続けていくには当然にさ、なにかしらのリアクションが無いとね、続けていけないから。だからそのリアクションをさせるような事をしないと。同じ事さっきから言ってるけど。

中山:はい。

梅村:森山さんもだから、生き方そのものが才能だって言うね、やっぱそうですよね。

森山:そうだよね。

梅村:生き方なんですよね。その人の才能って。

森山:だから、写真に才能があるんじゃなくて、もともとの、そういう生き方の人がカメラを持ってる、絵を描いてる、と言うことよね。

梅村:生き方そのものだから、もう才能は決まってるって事もいえるんだよ(笑)。逆に言うと(笑)。どういう生き方を選べるかって。作れるもんじゃないんだよね。

中山:生き方の提示ですよね。森山さんが子供の頃から続いてるっていうか。それは吉永さんもそうだし、他の一線でやられてる写真家さんもそれでやられてるんですね。

梅村:僕は思うんですけど、やっぱ写真ほど才能が影響するものは無いんだよと思うんですよ。つまり生き方ってことになるのかもしれないんですけど。だから、逆にもう決まってるみたいな事もあるんだよね。僕のイメージでは。僕にすれば、写真家になれる人も、なれない人も最初から決まってるみたいな所があるのかもしれないな。要するに、積み重ねていって才能が開花するのじゃなくて、決まってんじゃないかなぁって。それはだからそういう生き方を選んでるかってことなのかもしれないけど。

中山:極端に言うと、そういうことかもしれないですね。

梅村:だから結構写真の世界は厳しい世界じゃないかっていう風に思うんですよ僕は。例えば美術の世界だったら、違うカタチに逃げていけるじゃん。写真だって逃げていけるけどすごく。でもほんとに写真として凄いなってカタチになると、厳しいなぁと思うから。だから生き方を突き詰めていくのはそういうことなんだと思うんだけどな。森山さん、なんか偉そうなこと言っちゃった(笑)。

森山:いいよいいよ、言ってよ言って。

中山:まぁそれでも、しがみついて自分ではやろうと思ってるんで。自分も何かアクションを起こして森山さんに違うカタチで知ってもらえるような事もやっていきたいと思います。

森山:まず自分を壊す事な。とっても難しいと思うけど、でもね、それはさっきのコロンブスの卵じゃないけど、意外な簡単な所にあるから。てな感じかな(笑)。

中山・中馬:ありがとうございます!

森山:お疲れ様。


resist漢塾企画第一弾いかがでしたでしょうか?resist漢塾は前述しましたように、突撃レポートのようにして、インビューに起承転結を求めずに、対話を進めて事柄を掴み取りたいというコンセプトを元に始めたのですが、初回となる今回、冷や汗をかいたというより、吹き出したというのがあてはまります。しかし、そんなずぶの素人よりタチの悪い計画性無き私達インタビュアー 二人に、気長にお付き合い下さいました森山総長に随分と助けられて、インタビューも徐々に良い方向にへと進むことができました。今回インタビューに応じて下さいました森山総長に感謝致します。次回、漢塾ははたしてどこへ向かうのか?乞うご期待!


【後記】
中山:このテキスト化されたインタビューをあらためて読んでみて、resist講義での各講師の講義内容、また吉永塾長が常に僕らに語られ、伝えようとされてる写真表現に対する思いは結局、言葉や表現は違えど、最終的にすべて同じことであり、どの方もすべて同じ思いを伝えておられるのだなとあらためて思いました。僕自身が僕自身を表現していく上で、何かヒントを得たと思っています。

中馬:森山大道氏を前に数時間に及ぶインタビューは大変に濃く、写真にこだわると決めた自分にとり、貴重な時間となりました。また今回のインタビューでは、森山総長の写真とモノクロ映画のトーンの関連をお聴きできたことは、新たな発見をできたように嬉しく思います。やはりそれまでに過ごしてきた生き方や記憶が写真の一枚に現れるという、そこに写真の魅力を改めて感じました。

更新日:2010年4月28日