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『教えて森山総長』その2


中山:では僕が講義を受けてたresistの話に戻るんですけど、とりあえず僕は、はじめ入った頃は何も知らないズブの素人で…

森山:中山君はそうだったんだ?

中山:そうですね、森山さんのマネゴトを出来るわけないのに結構してたみたいな感じで、何も(自分の表現を)考えず、パッパパッパ撮ってた素人だったんです。それでresistに入っていくと、それがスゴく中途半端と言うか、曖昧で覚悟が無い、ちゃんと己の覚悟を撮ってるんじゃなくって、ポーズぽくやってたって事を、すごくresistで教えてもらった気でいるんです。それを発表するというか、写真を撮るという事、また人に評価してもらうという事の、難しさというのを体感したんですよね。

森山:うんうん。そりゃ難しいよね。

中山:ほんとにそれが難しいなと、今でもそういうところを闘っていると言うか、発表するってことは、それぐらいの覚悟がいるなって事を教えてもらったんですけど、森山さんはずっとそれをやり続けておられます。

森山:やっぱりそれは相対的に他に面白いものが別に無かったて言う事があるよね。写真以外にね。こだわりたくなるものが何も無かったっていう。て言うかねつまり、まぁなんとなく写真をやっててさ、思う風に写真を発表して、まぁそれなりに認められたいって言うさ、その程度の気分てのはみんなそら一様にあるじゃない、やってる以上。でもその気分から、それが気分じゃ無くなるように自分を持っていかないとある意味でさ。もう抜き差しならないとこへ自分を追い込めるとね、また追い込まないと繋がっていかないよね。たださぁ、それはやっぱ個体差があるし、みんながそう思ったからってじゃあ出来るもんじゃないしね。

中山:その人にはその人なり個人の、カタチがいろいろあるわけですからね。

森山:だから要するに、生き方を選ぶってことだから、結局は。それにたまたまカメラマンていうのは写真を介在にするって言うの?メディアにする。結局生き方でしょ。だから自分の生き方みたいなものを自分で作っていくっていうの?開いていくっていうのかなぁ、繋げていくっていうそれが出来ないとさ、ダメだよね。

中山:なんか、そのぉ、覚悟と言うんでしょうか…

森山:うん、だからほら、覚悟って言うけどさ、じゃあ何を覚悟すればいいのか?ってなるじゃん。ならない?俺は一番最初の時期にね、とにかく『東松照明みたいになりたい』、その次に『山岸章二に写真を持って行って絶対に認められたい』とかさ、もうそう言う現実的な事ばっかりなんだよね。で、それをなんとかそれに向かって色々やってきたわけ。その内になんかほんとに写真が面白くなっちゃって。面白いっていうか自分のね、自分のなんかこう生きる上でのメディアみたいになってきて、そうなったらもう離れられないよね。『写真よさよなら』といいさ、何を言ったって離れられない。だから、結局自分がどう生きたいか、それからたまたまカメラを持ってしまって、そのカメラで本当にやっていくのかどうかね。やっぱりどっかで覚悟を決めないと。その覚悟の為には、あらゆるリスクも、つまりほとんどリスクだらけだから世の中は。あらゆるリスクも、なんかこう受け入れるっていうの?しょうがねぇってどっか居直りとか、なんかそう言うものがないとねなかなかなぁ。中山君なんかどう考えてるの?今写真撮ってんの?

中山:撮ってます。

森山:で、撮ってどうすんの?いやまぁそれは中山君だけじゃなくてさ。中馬君にも同じような事を言ってんだけどね。

中山:わかんないですけど僕もやっぱり、撮っちゃってると言うか…撮りたいというか、わからないものに進んでる気ではいるんです。

森山:うんうん、まぁそれはね、うん。

中山:まぁ試行錯誤と言うか、自分なりに、その発見を探してるのかもしんないですけど。

森山:でもさ、やっぱりその、気分とか、精神論じゃしょうがないじゃない。じゃあ現実的にどうやっていくかっててかさ、考えざるを得ないでしょ。

中山:はい。

森山:結局はさ、一個一個は現実が当面してるわけだから。どうするの?カメラマンなるの?

中山:なります。

森山:なるとしたらさ、だってこんだけウジャウジャカメラマンいるじゃん。似たような写真がいっぱいあるわけじゃない。そこからやっぱり抜けてこないとダメだよね。とにかくね、要するに僕の場合、写真てのはもちろんあるんだけど、やっぱり俺はフリーになってすぐに家庭とか、カミさん持っちゃってさ、子供が居ることになっちゃってさ。でも俺、家庭とかにさ、こう…そういう生活が無理なんだよね。だからどんどんどんどん家庭から遠ざかっていくわけだよね。つまりわがままをやるわけだよね。だからやっぱり、どれぐらいわがままを通すかだよね。その人自身が抱えてる欲とか、そこから出てくるわがままみたいなのをさ、どこまで通していけるかね。やっぱりそう簡単な事じゃないと思うから、わがままを通していくのは。でもやっぱり僕は思うんだけど、カメラマンだけじゃなくて、やっぱり物を表現している人間てのは全員わがままだよね。全員どっか病気持ってるよね、なんかの病気を。だからやっぱりそう言うものがベースにないと。チョロッと撮って、チョロッと褒められて、チョロッとなんか人に見てもらう程度だったら、どうってことは出来るんだよ、センスがあれば。センスだけではダメだからさ。それとね、もう一個はこれはへんな言い方だけども、やっぱり写真てのは撮るのはあたり前じゃない。撮らなきゃ始まらないんだよ。だけど特に写真てのは極めてインデビジュアルて言うか、個人的な物だから。つまりさ、自分を演出していかなきゃダメなんだよね。撮るだけじゃなくて。演出をするって事は、人に見せるってことも含まれるんだよ。だから、演出って言うと、なんかいやらしく聞こえるけどそうじゃないんだ。でもそれは必要なんだよね。チームワークで作るもんじゃないからさ、基本写真は。まぁコマーシャルとかは別の話だから。やっぱり自分で自分を演出していく。もちろん撮りながらよ。で、その演出に堪えうるものが出来ないとさ、いくら演出したってさ、おかしいだけでさ。だから両方必要なんだよね。まぁ、こんなこと言っててもなぁ。

中山:いやまぁ…ほんと…

森山:でもさ、やっぱほらさ、中山君にしても、中馬君にしてもさ、写真にこだわろうとしているわけで、できれば二人ともが、ダメだったらどっちかがガバッと出て欲しいと思うんだよ本当に。それは思うんだよ、俺らは。やっぱだから…う〜ん…。どうすんの?て感じだよ…。

(二人とも沈黙)

森山:中馬君は何?今も映写技師みたいなことをやってんだっけ?

中馬:はい。映画館で働いてます。

森山:中馬君なんか、こう映写機撮ったりさ、そっからこう広がってる?広がっていく世界みたいなのにやっぱ今でもこだわって撮ってんのかなぁ?

中馬:そうですね、今日も映画館撮影してきましたし、明日からまた東北の方にぐるっとまわって映画館を撮影していくんですけど。

森山:ああ、ほんと。

中馬:映画館だけじゃなしに、映画に携わる人たち、例えば看板描いてる人、フィルムの現像所とか、そういう所も撮影させていただいたりしています。最初の自分の仕事を撮り始めた時からに比べると、大分世界は広がってると思います。

森山:まぁそれはとりあえずこだわれる世界だよね。こだわるしかない。だから写真でニューシネマパラダイスみたいなのをやってよ。

中馬:(笑)そうですねぇ。

中山:中馬さんは、自分の仕事から繋がっていったの?

中馬:そうですね、自分の映写技師という仕事をまず記録で残しておきたいって思いから、撮り始めたのがきっかけなんですけども。

中山:僕も最近、昔ずっとバンドを昔からやってて、音楽の業界、業界って言っても大袈裟ですけど、そんな所に昔は居てて、ずっとしばらく離れてたんですけど、やっぱりそこが自分の考え方とかも全部育った場所だと思って、最近そのライブハウスのミュージシャンのオフショットみたいなのとか撮ってるんですよ。なんかまぁ、へんてこな連中なんですよね。やっぱああいう、音楽なんて志してる連中なんてのは。

森山:いやまぁそうだと思うよ。僕はそこの世界はあんま知らんけどさ。

中山:そういうのも伝えたいなって気持ちがだんだん出てきて、そういった人たちを撮ったりとか。

森山:うん。だからさ、まぁ、俺すぐ言葉で言っちゃってね、そう言うのはつまんないかもしんないけどさ、やっぱりミュージシャンの人たちがそれぞれ持ってる、抱えてる病気みたいなのがあるじゃない。それにあなたの病気がぶつからないと面白くないよね。あくまでも客観的に見てみてもさ、そりゃやっぱり撮らされてる事になっちゃうよね。やっぱりあなたの病気がそこにぶつかっていかないと。そうすると面白い物が出来るよね。きっと。

中山:何かが写るっていう。

森山:それは映画の場合もそうだよね。映画館撮ろうが、そういう携わる人間撮ろうが、やっぱり、中馬君の抱えてる病気が、そこにショートしていかないと、ほんとの意味でのリアリティーが無いよね。だから、ほんとにそういうテーマがあるんだったら、やっぱり自分の病気をさ、絶対持ってると思うからさ、その病気を。

中山:その自分の病気と、被写体とぶつかって、そこではじめて何かが出来ると。

森山:だってさ、その目に見えてね、お互いの病気が見えるわけじゃないんだからさ。やっぱしぶとくこだわって、どんどんある意味で進化していくっての?深く入って行くにしたがって、病気がお互いに見えてくるよね。という世界だと思うよどっちにしても。あいつら病気だから、俺も病気だからって撮ったって、そんな病気が写るわけないからさ。そっから入っていくってことよね。やっぱりある深みにさ。

中山:そういう風にして自分の写真をやっていくと、まぁはじめに森山さんも言われてたんですけど、必然と量も撮ってしまいますし、勝手に増えていくって言うか。

森山:うん。だと思う。どうしようもなく、もう撮るしかなくなるわけだからね。というか、その撮る病にもさ、こう繋がってちゃうから。当然。

中山:じっとしてられなくて、動いちゃう自分が。それが正しいかもわかんないんですけど、答えは。でもなんかやっちゃってる自分をもっと追求していかなアカンかなぁと。

森山:まぁ、どうせ答えなんかそんな簡単にあるわけ無いしさ。それから大体正しいことなんか無いから。そういう風に思ってやっていけばさ。

(『教えて森山総長』その3に続く)

更新日:2010年3月24日